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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)8401号 判決

主文

一  別紙原告目録記載の原告番号一ないし七、九ないし二二、二四ないし二九、三一ないし四〇、四二、四四ないし四八、五〇ないし六〇、六二ないし六六、六八ないし七六、七八、八〇ないし九〇、九二ないし一〇五、一〇七ないし一一三、一一五ないし一二八、一三〇ないし一四七、一四九ないし一九〇、一九二ないし二〇四、二〇六ないし二四七、二四九ないし二五八、二六〇ないし二六五、二六七ないし三三二、三三四ないし三八四、三八六ないし三九四、三九六ないし四〇八、四一〇ないし四一六、四一八、四二〇ないし四六〇、四六二、四六四ないし四九二、四九四ないし五一七、五二五ないし五二八、五三〇ないし五五〇の各原告と被告湯の郷観光開発株式会社との間において、右原告らが被告湯の郷観光開発株式会社が別紙物件目録一記載の土地において経営する湯の郷ゴルフ倶楽部の別紙会員権目録記載の各会員権を有することを確認する。

二  被告湯の郷観光開発株式会社は、別紙原告目録記載の原告番号五一八ないし五二〇の各原告に対し、各金五〇万円及びこれに対する平成元年八月二日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  別紙原告目録記載の原告番号一七、五一、八三、九九、一〇四、一二〇、一二四、一二五、一三二、一三三、一三四、一三八、一四四、一四五、一五〇、一五一、一五六、一五九、一六五、一六六、一七二、一八〇、一八三、一九〇、二〇七、二〇九、二一二、二一五、二一七、二一八、二二〇、二三二、二三七、二三九、二四〇、二四二、二五四、二六九、二七二、二七四、二七八、二八〇、二八一、二八二、二八五、二八六、三一一、三一六、三二〇、三二四、三三二、三三五、三三六、三三七、三六〇、三六六、三七一、三七二、三七三、三八〇、三八二、三八三、四〇七、四〇八、四一五、四二〇、四二一、四五五、四六〇、四六二、四九六の各原告のその余の請求を棄却する。

四  別紙原告目録記載の原告番号八、二三、三〇、四三、四九、六一、六七、七九、九一、一〇六、一二九、一四八、一九一、二〇五、二四八、二五九、二六六、三三三、三八五、三九五、四〇九、四一七、四一九、四六一、四六三、四九三、五二一ないし五二四、五二九の各原告の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告らと被告和田忠浩との間においては全部原告らの負担とし、別紙原告目録記載の原告番号八、二三、三〇、四三、四九、六一、六七、七九、九一、一〇六、一二九、一四八、一九一、二〇五、二四八、二五九、二六六、三三三、三八五、三九五、四〇九、四一七、四一九、四六一、四六三、四九三、五二一ないし五二四、五二九の各原告と被告湯の郷観光開発株式会社との間においては全部右原告らの負担とし、別紙原告目録記載の原告番号一七、五一、八三、九九、一〇四、一二〇、一二四、一二五、一三二、一三三、一三四、一三八、一四四、一四五、一五〇、一五一、一五六、一五九、一六五、一六六、一七二、一八〇、一八三、一九〇、二〇七、二〇九、二一二、二一五、二一七、二一八、二二〇、二三二、二三七、二三九、二四〇、二四二、二五四、二六九、二七二、二七四、二七八、二八〇、二八一、二八二、二八五、二八六、三一一、三一六、三二〇、三二四、三三二、三三五、三三六、三三七、三六〇、三六六、三七一、三七二、三七三、三八〇、三八二、三八三、四〇七、四〇八、四一五、四二〇、四二一、四五五、四六〇、四六二、四九六の各原告と被告湯の郷観光開発株式会社との間においては、これを二分し、それぞれを右原告らと被告湯の郷観光開発株式会社の負担とし、その余の原告らと被告湯の郷観光開発株式会社との間においては全部被告湯の郷観光開発株式会社の負担とする。

理由

一  事実経過

1  訴外会社によるゴルフ場の開設及び経営について

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  訴外会社は、昭和四七年五月一六日、今川を代表取締役とし、ゴルフ場の経営等を目的として設立されたが、同四九年一〇月ころ、本件土地上に本件クラブハウスを建築・所有し、同五一年七月ころ、ゴルフコースとして本件土地を取得し、それに先立つ同四七年ころから、湯の郷カントリークラブの会員募集を開始し、同五〇年四月ころから、本件土地において湯の郷カントリークラブを開設し、同クラブを経営していた(右訴外会社の設立時期については争いがない)。

(二)  湯の郷カントリークラブは、いわゆる預託金会員制のゴルフクラブで、それ自体独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有せず、訴外会社が本件ゴルフ場を経営し、同ゴルフ場施設の管理運営を同クラブの理事会に委託していた。

そして、湯の郷カントリークラブの会員になろうとする者は、訴外会社の定めた入会金等を訴外会社に預託し、同クラブの会員権を取得し、訴外会社から、会員証書、会員カードの発行を受けた。(訴外会社に預託金を払込んだ湯の郷カントリークラブの会員を以下「旧会員」という。)

(三)  会員権の内容は、基本的に「湯の郷カントリークラブ規約」(以下「規約」という。)ないし、右規約を昭和六〇年八月ころに一部改正したものである「岡山開発株式会社湯の郷カントリークラブ会則・細則」(以下「会則・細則」という。)に定められており、主な内容は以下のとおりである。

(1) 会員資格には、法人正会員・個人正会員・個人平日会員等の区別があつたが、法人正会員・個人正会員間には、法人正会員は原則として一口二名の会員資格を認めるものである他は、両者間に会員権の内容の差はない。

また、個人平日会員は、日曜、祝日及び理事会が定めた日を除く平日に限り、会社の施設を会員として利用できる。

(2) 規約第一〇条・会則第八条の定めるところに従い、会社が別に定める所定の料金を会社に支払い、本件ゴルフ場コースその他の附属施設を非会員に対して優先利用できる。

(3) 右会則一部改正前に入会した会員及び右会員から会員権譲渡を受けた会員については、会員登録手数料五万円を除き、預託金(入会金)を一〇年間据置き後、退会・死亡・その他理事会において必要と認めた時は、理事会の承認を得て返還請求することができる。(なお、本件原告らは、全員右の会員に該当する。)

(4) 会員は、所定の手続により、理事会の承認を得て会員権を譲渡できる。

(5) その他、月例競技会等の諸行事への優先参加、ハンディキャップの査定を受けること、原則として一回三人以内のビジターを同伴できること等の権利を有する。

2  原告らの訴外会社に対する会員権の取得

(一)  原始会員

(1) 《証拠略》によれば、原告番号一ないし七、九ないし二二、二四ないし二九、三一ないし四〇、四二、四四ないし四八、五〇ないし六〇、六二ないし六六、六八ないし七六、七八、八〇ないし九〇、九二ないし九七、一四〇ないし一四七、一四九ないし一九〇、一九二ないし二〇四・二〇六ないし二一三、二五一ないし二五八、二六〇ないし二六五、二六七ないし三一五、三四二ないし三六八、三八一ないし三八四、三八六ないし三九四、三九六ないし四〇七、四二二ないし四三九、四五二ないし四五七、四六四ないし四九二、四九四、四九七ないし五一七、五二二、五二五ないし五二八、五三〇ないし五四〇、五四四ないし五四八の各原告は、別紙会員権目録の入会日欄記載の各年月日ころに、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、同目録の会員資格欄記載の種別の、同目録の会員番号欄記載の各登録番号を有する湯の郷カントリークラブの会員権を取得したことが認められる。

また、抗弁2(二)(2)(4)(6)記載の事実(争いがない。)と《証拠略》を総合すれば、原告番号五二一及び五二三、五二九の各原告は、別紙会員権目録の入会日欄記載の各年月日ころ(但し、原告番号五二一の原告については、昭和五一年二月ころ)に、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、同目録の会員資格欄記載の種別の、同目録の会員番号欄記載の各登録番号(但し、原告番号五二一の原告については、HPN--〇一四一)を有する湯の郷カントリークラブの会員権を取得したことが認められる。

さらに、《証拠略》によれば、原告番号一九一、二五九、三九五、四九三の各原告については、別紙相続関係一覧表の被相続人欄記載の各被相続人が、別紙会員権目録の入会日欄記載の各年月日ころに、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、同目録の会員資格欄記載の種別の、同目録の会員番号欄記載の各登録番号を有する湯の郷カントリークラブの会員権を取得したことが認められ、右各被相続人が別紙相続関係一覧表相続開始年月日欄記載の日に死亡し、右各原告はその相続人であることは当事者間に争いがない。

(2) しかしながら、原告番号八、二三、三〇、四三、四九、六一、六七、七九、九一、一四八、二〇五、二六六、三八五の各原告については、原告ら主張の会員資格を取得したことを認めるに足りる証拠はない(原告番号九一及び同二〇五の原告は、「湯の郷カントリークラブ千疋屋観光開発株式会社」発行の領収書を有するが、会員であれば通常有するはずの会員証書や会員カード等を有していないことが弁論の全趣旨により認められるし、右領収書からは会員資格の種別も明らかでなく、右領収書だけでは、同原告ら自身がその主張の会員権を取得したことを認めるには足りないというべきである。原告番号三八五の原告は、湯の郷カントリークラブ支配人内田名義の在籍証明書を有するが、それが何に基づいて作成されたものかも作成の経緯も明らかでないから、右在籍証明書だけでは同原告がその主張の会員権を取得したことを認めるには足りない。)。

(3) したがつて、右(2)記載の各原告の請求は、その余の請求原因事実について判断するまでもなく、理由がない。

(二)  承継会員

(1) 《証拠略》によれば、原告番号九八ないし一〇五、一〇七ないし一一三、一一五ないし一二八、一三〇ないし一三九、二一四ないし二四七、二四九、二五〇、三一六ないし三三二、三三四ないし三四一、三六九ないし三八〇、四〇八、四一〇ないし四一六、四一八、四二〇、四二一、四四〇ないし四五一、四五八ないし四六〇、四六二、四九五、四九六、五二四、五四一ないし五四三、五四九、五五〇の各原告は、別紙会員権目録の入会日欄記載の各年月日ころに、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、同目録の会員資格欄記載の種別の、同目録の会員番号欄記載の各登録番号を有する湯の郷カントリークラブの会員権を取得した同目録の譲渡会員名欄記載の各会員から(但し、原告番号一〇七、一二五、一三六、二四〇、三三二、三三八、三七二、三七三、三八〇、四四〇、四四一の各原告は別紙譲渡目録記載の譲渡者欄記載の各譲渡者から)、同目録の譲渡日欄記載の各年月日ころに、右会員権を譲り受け、訴外会社や被告湯の郷観光による名義変更手続を経たことが認められる。

また、抗弁2(二)(1)記載の事実(争いがない。)と、《証拠略》を総合すれば、原告番号四一九の原告は、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、登録番号H--二一一二を有する湯の郷カントリークラブの個人正会員の会員権を取得した会員から、ゴルフ会員権販売会社を通じて昭和五九年九月ころ右会員権を譲り受け、訴外会社による名義変更手続を経たことが認められる。

さらに、《証拠略》によれば、原告番号四一七の原告については、昭和四八年三月二九日ころに、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、登録番号NK--二三六を有する湯の郷カントリークラブの個人正会員の会員権を取得した訴外谷本忠雄から、被相続人古川貴章が、昭和五一年一月二四日ころ、右会員権を譲り受け、訴外会社による名義変更手続を経たことが認められ、被相続人古川貴章が昭和六〇年三月一五日死亡し、右原告はその相続人であることは当事者間に争いがない。

(2) しかしながら、原告番号一〇六、一二九、二四八、三三三、四〇九、四六一、四六三の各原告については、右原告ら主張の会員権を原告ら主張の年月日に原告ら主張の会員から譲り受けて取得したことを認めるに足りる証拠はない。(原告番号四六一の原告は、「湯の郷カントリークラブ」と印刷された同原告宛の封筒〔甲J第一号証の四六一の一、二〕を、原告番号一〇六の原告は、千疋屋観光開発株式会社名義の手書きの預り証〔甲B第二号証の一〇六〕を、原告番号一二九の原告は、ナショナルゴルフ名義で「湯の郷CC」と但し書きのある領収証〔甲B第二号証の一二九〕を、それぞれ提出するが、それらによつては、右各原告の会員権取得を認めるには足りない。)

(3) したがつて、右(2)記載の各原告の請求は、その余の請求原因事実について判断するまでもなく、理由がない。

(三)  預託金請求グループ

《証拠略》によれば、原告番号五一八ないし五二〇の各原告は、別紙会員権目録の入会日欄記載の各年月日ころに、訴外会社に対し訴外会社所定の入会金を支払い、同目録の会員資格欄記載の種別の、同目録の会員番号欄記載の各登録番号を有する湯の郷カントリークラブの会員権を取得したことが認められる。

3  被告和田による訴外会社への融資

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告和田は、昭和五六年から同五八年にかけて、協和興業の仲介等により、今川及び同人が代表者をしていた訴外会社や今一興産等に融資をし、同五八年当時の総融資額は、利息も含めて二五億円近くになつていた。また、協和興業は、訴外会社等の被告和田に対する貸金債務を保証するために、訴外会社等の振り出した手形に裏書をなし、同五八年当時、被告和田に対し、一五億円の手形債務を負担していた。(被告和田が訴外会社に多額の融資をしていたことは争いがない。)

(二)  被告和田は、昭和五八年六月二二日、訴外会社との間で、本件土地・建物に、債務者を今川、訴外会社及び今一興産とする、極度額一五億円の根抵当権設定契約を締結し、同日、本件土地・建物にその旨の根抵当権設定登記を経由し、協和興業は、同日、本件土地・建物に賃借権設定の仮登記を経由した。

4  仮処分事件における和解

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  昭和五八年、今川、訴外会社及び今一興産は、被告和田を相手方として、大阪地方裁判所に対し、利息制限法に基づく元本精算と直接交渉を禁止することを求める仮処分(昭和五八年(ヨ)第五一九〇号)を申請した。

(二)  昭和五九年八月二三日、右仮処分事件において、今川、同人が代表取締役をしていた訴外会社、今一興産及び日本電広株式会社、被告和田並びに協和興業との間で、次のとおりの主な内容の和解(以下「本件和解」という。)が成立した(右仮処分事件で和解が成立したことは争いがない)。

(1) 今川、訴外会社及び協和興業らは、被告和田に対し、合計二三億六九二六万円の債務があることを認める(内、今川及び訴外会社の被告和田に対する債務は二一億円、協和興業の被告和田に対する債務は一五億円)。

(2) 今川、訴外会社及び協和興業らは、(1)の被告和田の訴外会社らに対する債権を担保するため、訴外会社の全株式(二万株)及び四国栄宝の全株式(一万六〇〇〇株)につき、被告和田に株券が交付されて譲渡担保が設定されていることを確認する。

(3) 訴外会社ら(今川、協和興業を除く)は、被告和田に対し、(1)の債務のうち、一四億五〇〇〇万円及び追加弁済金の支払義務を認め、被告和田は訴外会社らに対しその余の債務を免除する。

(4) (3)の一四億五〇〇〇万円の弁済期は、昭和六〇年六月三〇日とする。

(5) 訴外会社は、本件土地・建物等の換価処分を速やかに行い、訴外会社の換価手取金額から五億円を控除した残金の二分の一を、追加弁済金として被告和田に支払う。

(6) 今川、訴外会社及び協和興業らが、(4)の弁済期までに一四億五〇〇〇万円を支払えなかつた場合、訴外会社は、被告和田から意思表示があつたときは、本件土地・クラブハウス等の占有を被告和田に引渡す。

(7) 被告和田は、訴外会社及び四国栄宝に対する意思表示をすることにより、前記の各株式の所有権を確定的に取得するものとし、訴外会社は、直ちに被告和田を株主とする名義変更手続を行い、四国栄宝に被告和田を株主とする名義変更手続を行わせる。

(8) ((7)に続けて)「なお、訴外会社が経営するゴルフ場の会員の同社に対する権利義務には何らの変化のないことは勿論である。」

(三)  訴外会社の株式は、今川ら同人の一族が所有していたが、被告和田は、右和解当時、訴外会社の全株式(二万株)の株券を今川らから預かり、保管していた。

5  豊田商事への訴外会社売却と解除の経緯

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。(《証拠判断略》)

(一)  昭和五九年八月ころ、協和興業の左が水野に対し、今川が協和興業や被告和田に対する債務返済のために訴外会社を売りに出したいと言つているので買手を紹介してほしい旨の依頼をし、同年一〇月上旬ころ、水野は豊田商事の永野会長(以下「永野」という。)に右売買の話を持ち込み、永野からも売買仲介の依頼を受けた。

(二)  左及び今川は、幾度か水野と交渉した後、右売買に応じることとし、昭和五九年一二月一〇日、水野、松井、永野、永野の秘書である村崎俊(以下「村崎」という。)が集まり、水野興業が豊田商事グループの海外広告株式会社(以下「海外広告」という。)に対し、訴外会社の全株式を四三億三一〇〇万円で売却する旨の売買契約が締結された。売主名義が水野興業となつたのは、今川が豊田商事グループには売りたくないとの意向を示したので、水野興業が今川から訴外会社の全株式を購入してこれを豊田商事グループに売却する形式を採つたからであつた。代金決済は、契約成立と同時に一億円、残金を昭和六〇年一月から同六四年六月まで毎月末日限り一億円ずつ(最終回は一億三一〇〇万円)支払うとの約定になつていた。

(三)  昭和六〇年一月八日、訴外会社の商号を同五九年一二月二五日に「千疋屋観光株式会社」から「岡山開発株式会社」に変更した旨の登記がなされ、同六〇年二月一二日、本件クラブハウスについて、豊田商事グループの株式会社ワールドゴルフディベロップメントに対する同年一月一〇日売買を原因とする所有権移転登記がなされた(右訴外会社の商号変更がなされたことは争いがない)。

(四)  昭和六〇年六月一八日、永野が殺害され、今後の対応が問題となつたので、昭和六〇年六月二一日、水野興業の事務所に水野、左、豊田商事グループの株式会社豊田ゴルフクラブの社長薮内、豊田商事社長の石川、銀河計画社長の北本が集まり、水野興業と海外広告間の前記売買契約解除を合意し、本件クラブハウスにつきなされている株式会社ワールドゴルフディベロップメントへの所有権移転登記を抹消すること等の話合いがなされた。

昭和六〇年七月九日、右話合いに基づき、本件クラブハウスにつき訴外会社への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がなされた。

(五)  当時、被告和田は、債権の返済を専ら左に対して迫つていた。被告和田は、左から本件和解で定めた一四億五〇〇〇万円の債務の弁済期を昭和六〇年六月三〇日から同年一一月まで延期してもらいたい旨の要請を受けたので、右債務の弁済期を同年一一月まで延期した。

6  被告湯の郷観光設立までの経緯

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  昭和六〇年七月一五日、訴外会社の代表取締役が、道添憲男(豊田商事グループ系)から谷岡不二男(以下「谷岡」という。)及び楠益治(以下「楠」という。)に替わり、訴外会社の取締役が、道添憲男、和気厳、品川久光(以下「品川」という。)から谷岡、楠、林達一、勝屋賢二に替わり、監査役が、三村武政から石橋瑞久(以下「石橋」という。)及び村田武彦に替わり、同月一七日、その旨の登記がなされた。

訴外会社の代表取締役に就任したもののうち、谷岡は、水野興業の関係者で、楠は、協和興業の関係者であつた。また、訴外会社の取締役に就任した勝屋賢二は、協和興業の関係者、訴外会社の監督役に就任した石橋は、水野興業の関係者であつた。

(二)  昭和六〇年七月ころ、豊田商事が倒産し、豊田商事から派遣されていた支配人の品川が引継ぎもなく帰阪し、湯の郷カントリークラブのメンバーであつた内田孝明(以下「内田」という。)がメンバーの有志からなる実行委員会を開いて今後の対応を協議していたが、その数日後に、石橋が東京から来て、支配人代理として訴外会社の経営に関与する旨を内田に説明した(豊田商事が倒産したことは争いがない)。

当時、湯の郷カントリークラブの理事会は活動を停止していたので、右実行委員会から代表を出して理事会を構成し、内田が司会し、谷岡も参加して、理事会を開催し、今後の運営方法等について協議し、その結果をふまえて、昭和六〇年一〇月ころ、谷岡が訴外会社の代表として、挨拶状を原告ら会員に送付した。

右挨拶状には、〈1〉豊田商事倒産後、今川は、本件ゴルフ場の経営について、主たる債権者と協議の結果、本件ゴルフ場の経営を大口債権者に委ねたこと、〈2〉債権者側は、今後の経営を引き受ける方針で準備を進めていたが、同年七月一〇日、豊田ゴルフクラブ、訴外会社に対する国土利用計画法違反の嫌疑により、湯の郷カントリークラブの事務所が岡山県警による家宅捜査を受け、このため、法律の定めるところに従い、同クラブの経営をすべて訴外会社に戻し、独立採算のもとで同クラブの運営を行う運びとなつたこと、〈3〉右経過の中で、債権者といろいろ協議した結果、同月一五日、訴外会社は豊田グループからの役員全員を退任させ、新たに債権者側に推薦された六名の役員が就任したこと、〈4〉預託金償還が不可能な経営状態にあるので、利益留保による償還準備を推進するに当たつて、通信費年額六〇〇〇円を年会費一万八〇〇〇円に切り換えること等が記載されていた。

(三)  昭和六〇年末ころ、石橋、谷岡及び楠から、内田に対し、湯の郷カントリークラブの支配人になつてほしい旨の依頼があり、内田は、水野と大阪で会い、水野から、預託金は将来全員に返還していく、名義変更もおこなつていく旨の話を聞き、湯の郷カントリークラブの支配人を引き受けた。

7  被告湯の郷観光設立

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  昭和六一年三月末ころ、協和興業は、融資先の倒産により、連鎖倒産に追い込まれ、同年五月一九日、東京地方裁判所に対し、破産宣告を申し立てた。

(二)  そのころ、今川が被告和田の会社を訪れ、債務の返済の目処も立たないので、ゴルフ場を売却するなり何なりして債権回収に充ててくれといつて、本件ゴルフ場施設等の権利書等を置いていつた。

(三)  昭和六一年六月二四日、被告湯の郷観光が被告和田により設立された。被告和田が、被告湯の郷観光を設立した動機は、湯の郷カントリークラブの経営に関与していた協和興業が倒産したことや、訴外会社の債権者らからの差押え、債権取立などが相次いでいたことで経営が混乱しており、このままではゴルフ場が潰れ、債権回収もできなくなるので、債権回収を図るためにも、ゴルフ場の経営会社を設立する必要があると考えたためであつた。

また、被告和田は、現夫・柴原を被告湯の郷観光に派遣するとともに、当時ゴルフ場支配人として運営に当たり、湯の郷カントリークラブの現状を把握していた内田を取締役に就任させた。

これにより、被告湯の郷観光の当初の代表取締役は和田現夫(以下「現夫」という。)、取締役は、現夫、柴原、神田義則、川上晋、内田、監査役は安達利典とされたが、このうち、現夫は被告和田の甥で、株式会社タツミ(以下「タツミ」という。)の当時の代表取締役であり、柴原はタツミの当時の取締役であり、安達もタツミの当時の監査役であつた。そして、被告和田は、被告湯の郷観光及びタツミの大株主であり、昭和五七年までたつみ興業株式会社(昭和五九年二月一四日にタツミに商号変更)の代表取締役を務め、その後、タツミグループの会長を務めていた。(被告和田が右のとおり被告湯の郷観光を設立し、同被告の甥の現夫がその代表取締役に、内田がその取締役に就任したことは争いがない。)

8  被告湯の郷観光による湯の郷カントリークラブの経営

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  昭和六一年の夏ころ、現夫と柴原が本件ゴルフ場を訪れた際、内田が現夫にゴルフ場の経営方針を聞いたところ、帰つて相談するということであつたが、約一か月後、現夫が弁護士と本件ゴルフ場を訪れ、右弁護士は、償還も名義変更も拒絶するとゴルフ場は潰れる、ゴルフ場をもたせていくには、無駄を省いて、名義変更や償還をして、皆さんに落ち着いてプレーを楽しんで頂く方法しかない旨の指示をした。

現夫は本件ゴルフ場に常勤せず、柴原が本件ゴルフ場に常勤し、経理及び本社との連絡を担当した。内田は、柴原の指示のもと、支配人として職務をおこない、コース作業に関すること、預託金償還、差押えなど、会員との交渉に関することを担当したが、経理には携わらなかつた。

内田は、訴外会社の会員権につき名義書換を行い、名義書換料を貯めて、預託金の償還にまわした。柴原はこのことを知つていた。

(二)  被告湯の郷観光が設立された後も、ゴルフクラブの名称は「湯の郷カントリークラブ」の名称が続用され、ゴルフクラブのマークも、訴外会社が経営しているときと同様のものが使われた。

(三)  昭和六一年七月一二日、被告湯の郷観光と訴外会社の間で、訴外会社は被告湯の郷観光に対し同年八月一日を以て湯の郷カントリークラブの経営を引き渡すに当たり、本件土地・建物等に付属する動産類の所有権を現状有姿のまま訴外会社から被告湯の郷観光に移転し、同日限り引き渡すこと及び右動産類につき未払債務があるときは、被告湯の郷観光は訴外会社に代わつてこれを支払うこと等を内容とする動産所有権譲渡契約が締結された。

(四)  そして、被告湯の郷観光は、ゴルフ場の什器備品等は訴外会社の物をそのまま使用し、訴外会社の負つていた業者への支払等の債務、プレー料収入、従業員給料等出入金も引き継いで処理した。また、訴外会社が雇用していた従業員をそのまま継続して使用し、従業員の構成に特に変化はなかつた。

(五)  旧会員は、プレー料金や各種の競技会で、湯の郷カントリークラブの会員として扱われていた。名義書換手続も受付で公然と行われていた。また、湯の郷カントリ-クラブの年会費も旧会員から徴収されていた。

(六)  被告和田は、柴原らに対して、旧会員について、従来どおりの会員料金でプレ-することを認める旨の指示をしていた。

(七)  昭和六一年七月一日、大阪地方裁判所において、原告らのうち預託金返還請求グループの原告らが訴外会社を被告として提起していた昭和六一年(ワ)第四〇三九号入会金返還請求事件について、請求を認容する判決の言渡しがあり、その確定判決に基づき、同年九月から昭和六三年四月にかけて七回にわけて強制執行(昭和六一年(執イ)第五二三号)がなされたが、被告湯の郷観光はこれに異議を申し立てることなく、右強制執行に応じた。

(八)  本件土地・クラブハウス他のゴルフ場施設は、従来のまま被告湯の郷観光が使用していたが、昭和六一年一二月一三日、被告和田が訴外会社から同年七月一二日譲渡担保を原因として本件クラブハウスの所有権を取得した旨の所有権移転登記がなされ、同月二六日、被告和田が訴外会社から同年七月一二日譲渡担保を原因として本件土地の所有権を取得した旨の所有権移転登記がなされた。(右各所有権移転登記がなされたことは争いがない。)

被告和田に本件土地・クラブハウスの所有権が移転してからは、これらを被告湯の郷観光が被告和田から賃借する形がとられたが、その使用状況には変化はなかつた。

本件土地・クラブハウスについては、さらに、被告湯の郷観光が被告和田から所有権を取得し、平成元年七月二七日、被告湯の郷観光が被告和田から同月二〇日売買を原因として本件土地・クラブハウスの所有権を取得した旨の登記がなされた。

(九)  本件土地・クラブハウスには、競売開始決定や仮差押がなされ、これに基づき、それぞれ七名の債権者による差押・仮差押登記がなされていたが、被告湯の郷観光が交渉のうえ債務整理に当たり、一名の債権者(三井建設株式会社)の仮差押を除き、昭和六三年一一月から平成元年六月にかけていずれも抹消登記手続がなされた。

(一〇)  昭和六一年一二月末ころ、被告湯の郷観光が「クラブニュースNo.1」を発行し、翌昭和六二年初頭ころ、原告らに送付された。右ニュースには、被告湯の郷観光の代表者である現夫名義で、湯の郷カントリークラブを被告湯の郷観光が経営することになつた旨、旧会員等の意を体し、専心努力する旨、支配人(内田)名義で、旧会員が誇りを持つてプレーできるゴルフ場にするよう従業員一同努力する決意をしている旨、湯の郷カントリークラブの理事長柴原名義で、湯の郷カントリークラブの理事長として就任した旨、旧会員等の支援を得て、立派なコースにしていく旨等が記載されており、被告湯の郷観光は旧会員の債務を負わない旨や被告湯の郷観光は旧会員を湯の郷カントリークラブの会員として扱わない旨の記載はなされていなかつた。(被告湯の郷観光が右クラブニュースを発行したことは争いがない。)

(一一)  昭和六二年中に、被告湯の郷観光の代表取締役が、現夫から被告和田の息子の正吉に変わり、タツミ(当時の代表取締役は徳原。)この助言のもと、経営が行われたが、経営態様に変化はなかつた。なお、このころ取締役に就任した山下亮之助、監査役に就任した河良彦も、タツミの役員であつた。

昭和六二年一〇月二六日、正吉が被告湯の郷観光の代表取締役に就任した旨の登記がなされ、同年一一月二七日、現夫が同年三月三一日に代表取締役・取締役を退任した旨の登記がなされた。

(一二)  昭和六二年一二月末ころ、被告湯の郷観光が「クラブニュース1987vol2」を発行し、これが原告ら旧会員に送付された。右ニュースには、理事長柴原名義の挨拶、支配人内田名義で、旧会員の協力により、同六一年に湯の郷カントリークラブが連盟に加入できた旨、被告湯の郷観光名義で、会員料金を現行より五〇〇円増額する旨等が記載されており、被告湯の郷観光は旧会員の債務を負わない旨や被告湯の郷観光は旧会員を湯の郷カントリークラブの会員として扱わない旨の記載はなされていなかつた。(被告湯の郷観光が「クラブニュース1987vol2」を発行したことは争いがない。)

9  被告湯の郷観光による旧会員の会員資格の否認

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  昭和六三年四月ころ、徳原が旧会員の名義変更の中止を内田らに指示した。同月五日、内田が支配人を解雇され、被告湯の郷観光の取締役も解任された。同年五月一〇日、柴原も被告湯の郷観光の取締役を解任された。

(二)  昭和六三年七月二五日、右6(七)記載の判決に基づく、動産に対する強制執行(昭和六一年(執イ)第五二三号)が着手されたが、被告湯の郷観光は、右被告は第三者であり債務者占有の動産はない旨述べて、右強制執行は不能となつた。

(三)  昭和六三年八月ころ、被告湯の郷観光は原告らの旧会員に対し、同年一二月末日限り湯の郷カントリークラブの会員として扱うことを止める旨、旧会員の実態調査をしたいので同封の回答書を送付してもらいたい旨等の記載がなされた通知を送付した。

(四)  昭和六三年九月七日、被告湯の郷観光は、雇用保険事業所に対し、事業所の名称を「湯の郷カントリークラブ」から「湯の郷ゴルフ倶楽部」に同年八月一九日に変更した旨届け出た。

(五)  昭和六三年一〇月一五日、被告湯の郷観光は原告らの旧会員に対し、被告湯の郷観光が訴外会社から旧会員の会員権の権利義務を承継していない旨、救済策として、〈1〉預託金ないし譲受価額の二〇パーセントを旧会員に支払い、旧会員は被告湯の郷観光に対する要求を放棄する、〈2〉訴外会社から預託金返還義務を引き受けるが、据置き開始日を昭和六四年一月一日として、(a)五年間据置き後預託金ないし譲受価額の五〇パーセントを支払う、(b)七年間据置き後預託金ないし譲受価額の七〇パーセントを支払う、(c)一〇年間据置き後預託金ないし譲受価額の九〇パーセントを支払う、〈3〉相当額(一五〇万円から二五〇万円)の保証金を新たに預託することにより、被告湯の郷観光の新クラブの会員になるとの案を提示し、回答を求める旨等の記載がなされた通知書を送付した。(争いがない。)

(六)  昭和六三年一一月一五日、被告湯の郷観光は原告らの旧会員に対し、アンケート結果の集計が遅れている旨、旧会員のプレー権は同年一二月末日で終了するが、翌同六四年三月三一日まで、同封の特別優待券で暫定的に会員料金でのプレーができる旨の記載がなされた通知書を送付した。

(七)  平成元年二月二〇日、被告湯の郷観光は原告らの旧会員に対し、前記(四)の通知の〈1〉の案に応じた者に対する償還業務が終了した旨、湯の郷ゴルフ倶楽部の会員権を特別価額(三〇〇万円から入会金三〇万円と旧会員権購入価額を控除した額)で募集する旨の記載がなされた書面を送付した。

(八)  平成元年三月ころ、旧会員のうち約二五〇人が、被告湯の郷観光の前記(四)の通知の〈3〉の提案に応じ、被告湯の郷観光に対し預託金を新たに支払い、被告湯の郷観光から湯の郷カントリークラブの会員証書と引換えに湯の郷ゴルフ倶楽部の会員証書の交付を受けた(旧会員のうち被告湯の郷観光に新たに預託金を支払つて湯の郷ゴルフ倶楽部の会員券の交付を受けた者を以下「新会員」という。)

二  被告湯の郷観光の責任について

以上認定の事実に基づいて、被告湯の郷観光による訴外会社の責任の承継の有無について判断する。

1  (営業譲渡)

(一)  前記認定事実によれば、被告湯の郷観光は、昭和六一年六月二四日に、本件ゴルフ場を経営する目的で被告和田によつて設立され、同年七月ころ、訴外会社との間で、同年八月一日をもつて訴外会社の経営を引き継ぐ旨の合意をし、それに伴つて、同年七月一二日、訴外会社との間で動産所有権譲渡契約を締結して、訴外会社の本件ゴルフ場施設内の動産類(什器備品を含む。)を譲り受け、その際、右動産類についての訴外会社の債務も引き受けることを合意したことが認められる。

そして、被告湯の郷観光は、湯の郷カントリークラブの営業を、(1)本件土地・クラブハウス等の施設一切をそのまま使用し、訴外会社の従業員もそのまま継続して使用し、プレー料収入、従業員に対する給料・納入業者に対する支払等の経費関係債務を引き継いで処理するなどして行い、また、(2)旧会員(もつとも、被告湯の郷観光は新たな会員を募集していないので、会員は、旧会員及び旧会員から会員権譲渡を受け、被告湯の郷観光の承認を得て名義変更した者のみである。)との関係でも、昭和六三年八月ころまでは何らの留保も付けずに、会員料金でのプレーを認め、会費を徴収し、名義変更や預託金の償還にも応じ、旧会員を被告湯の郷観光が経営する湯の郷カントリークラブの会員として扱うことを前提とする内容のクラブニュースを昭和六一年一二月ころと同六二年一二月ころの二回にわたり発行してこれを送付し、会員のネームプレートも従前のままにし、旧会員権の債務者を訴外会社とする債務名義(判決)による強制執行にも応じるなど、被告湯の郷観光設立・経営開始後二年以上の期間、旧会員を被告湯の郷観光が経営する湯の郷カントリークラブの会員として扱つていたものである。

被告湯の郷観光は、右経営態様に関して、昭和六三年四月までは、内田が湯の郷カントリークラブ会員の立場に立つて、独断で経営をなしていたものだと主張するが、前記認定のとおり、内田は、被告湯の郷観光の取締役に就任し、支配人として権限を与えられ、代表取締役現夫・正吉、柴原の了解のもと、右のような職務に当たつていたものであり、その行為は被告湯の郷観光の行為というべきものであることは明らかである。

(二)  ところで、商法総則で定める営業の譲渡とは、一定の営業目的のために組織化された有機的一体としての機能的財産(営業用財産である物・権利だけでなく、いわゆる事実関係を含む。)の譲渡をいうものと解される。

これを本件についてみると、本件土地は本件ゴルフ場用地で、そのクラブハウスである本件クラブハウスと共に、本件ゴルフ場経営会社であつた訴外会社の重要な財産というべきものであるところ、本件土地については昭和六一年一二月一三日、本件クラブハウスについては同月二六日、いずれも同年七月一二日(被告湯の郷観光が訴外会社と動産所有権譲渡契約を締結した日)の譲渡担保を原因として訴外会社から被告和田に対する所有権移転登記が経由され、それらを被告和田から被告湯の郷観光が賃借する形がとられた(その後の平成元年七月二七日に、同月二〇日売買を原因として被告和田から被告湯の郷観光に所有権移転登記が経由された)ことは前記認定のとおりであつて、被告湯の郷観光は、訴外会社から本件ゴルフ場の経営を引き継いだ際、その経営に必要不可欠の本件土地・クラブハウスの所有権の譲渡を受けていなかつたものである。

しかし、そもそも被告湯の郷観光は、訴外会社の全株式を取得した被告和田が、本件ゴルフ場の営業の維持によつて債権回収を図るために設立した会社であり、その経営も、被告和田の近親者や、被告和田が事実上支配していた会社(タツミ)の役員らが代表取締役等の役員となつて行われていたもので、経営面で被告和田の強い影響力があつたことが容易に推認されるものである。これに、本件土地・クラブハウスになされていた差押及び仮差押の各債務は被告湯の郷観光が概ね返済・整理し、その抹消登記が最後になされた平成元年六月二六日の後間なしに、本件土地・クラブハウスについて被告和田から被告湯の郷観光への所有権移転登記がなされたことを合わせかんがみれば、被告湯の郷観光は、被告和田の支配・影響力の下に、被告和田と事実上一体となつて本件ゴルフ場を経営する目的で、後に本件土地・クラブハウスの所有権を被告和田を通じて取得することを前提として、訴外会社から本件土地・クラブハウスを除く本件ゴルフ場設備を譲り受け、その債務を承継するなどして訴外会社の経営を引き継いだものと認めるのが相当である。

そして、このような被告湯の郷観光の被告和田との関係に、前記認定の被告湯の郷観光設立の目的、被告湯の郷観光の湯の郷カントリークラブ運営の態様、被告湯の郷観光の本件土地・クラブハウス取得の経緯、被告湯の郷観光の旧会員に対する対応等を合わせかんがみれば、被告湯の郷観光は昭和六一年八月一日訴外会社から、組織的一体として同一性を維持して営業を譲り受けたものと認めるのが相当である。

2  (商号の続用)

商号は商人の営業上の名称であるが、商法二六条一項が商号を続用する営業譲受人に弁済義務を認めた趣旨は、商号が続用される場合には、営業上の債権者は、営業譲渡の事実を知らず譲受人を債務者と考えるか、知つたとしても譲受人による債務の引受があつたと考え、いずれにしても譲受人に対して請求をなしうると信じ、営業譲渡人に対する債権保全を講ずる機会を失するおそれが大きいこと等にかんがみ債権者を保護するところにあると解され、これからすると、商号そのものではなくとも、営業上使用される名称が営業の主体を表示する機能を果している場合には、右法条の趣旨は及ぼされるべきであり、同条を類推して、名称を続用した営業の譲受人の弁済義務を認めるべきものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、被告湯の郷観光は、昭和六一年八月一日訴外会社から営業を譲り受けた後も、本件ゴルフ場の経営に関して、昭和六三年八月一九日に名称を「湯の郷ゴルフ倶楽部」に改めるまで「湯の郷カントリークラブ」の名称を続用し、ゴルフクラブを示すマークも訴外会社経営当時のものと同様のものを続用していたことは前記認定のとおりであるところ、ゴルフクラブの名称は商号そのものではないが、ゴルフ場の経営については、その経営主体の名称が使用されるよりは、そのクラブの名称が使用されるのが一般的で、ゴルフクラブ会員権者は当該ゴルフクラブの名称を使用する者に対し権利を有するものと考えるのが通常であり、ゴルフ場の営業については、一般にはゴルフクラブの名称によつて営業の主体が表示されるものと理解されている。

したがつて、被告湯の郷観光が、訴外会社において使用していた「湯の郷カントリークラブ」の名称を継続して使用していたことについては、商法二六条の商号の続用に準じて考えるのが相当である。

3  以上によれば、被告湯の郷観光は、訴外会社から営業を譲り受け、商号の機能を有する「湯の郷カントリークラブ」の名称を続用したものであるから、商法二六条一項に基づき、訴外会社と原告ら旧会員との間に締結されたゴルフクラブ会員権契約に基づく債務の弁済義務を負うものというべきである。

三  被告和田の責任(本件和解に基づく重畳的債務引受)について

前記仮処分における本件和解の条項中に、今川らが被告和田に対し弁済期までに一四億五〇〇〇万円の支払をできなかつたときは、被告和田が訴外会社に対する意思表示をすることにより、訴外会社の全株式を確定的に取得する旨の条項の後に、なお書きとして、「訴外会社が経営するゴルフ場の会員の同社に対する権利義務には何らの変化のないことは勿論である。」との記載があることは前記認定のとおりである。

しかし、本件和解の条項の記載からすれば、右なお書きの「同社」とは訴外会社のことを指すものと解され、右なお書きは、被告和田が訴外会社の全株式を取得しても、旧会員の訴外会社に対する権利義務には変化がない旨の当然のことを確認したものにすぎず、右なお書きが被告和田に債務引受させる意味を含むものとは到底解されない(本件和解は、今川らに対する債権者である被告和田がその債権回収手段として訴外会社の株式等を取得するというものであるのに、被告和田が個人として更に訴外会社の債務を引き受けなければならないような事情があつたことは窺われないし、その債務引受は、被告和田にとつて重大な意味をもつものであるから、それがなお書きで記載されるはずはなかつたであろうと考えられる。)。

そして、他に、被告和田が、本件和解において訴外会社の旧会員に対する債務を引き受けたことを認めるに足りる証拠もない。

したがつて、被告和田に対する当該原告らの請求(主位的請求及び予備的請求)は、同被告の右債務引受の合意の成立を前提とするものであるから、いずれも理由がない。

四  死亡による会員権の喪失(原告番号一九一、二五九、三九五、四一七、四九三の各原告関係)について

1  抗弁1(死亡を会員権喪失事由とする特約)について

右原告らは、訴外会社から湯の郷カントリークラブの会員権を取得した者及び右取得者からの譲受人の各相続人であるところ、《証拠略》によれば、湯の郷カントリークラブの規約により、会員は、死亡によつて会員資格を喪失し、預託金を一〇年間据え置き後に理事会の承認を得て返還請求できるにとどまることが認められる。

したがつて、会員の死亡は、会員権の喪失事由であり、会員権はその相続人には承継されないというべきである。

2  再抗弁1(右規約の実際の運用)について

右原告らは、湯の郷カントリークラブにおいては、会員が死亡した場合も相続人がその権利を相続する取扱が通例とされていた旨主張するが、右主張事実を認めるべき証拠はない。

3  したがつて、原告番号一九一、二五九、三九五、四一七、四九三の各原告ら主張の会員権は、会員権が既に喪失したものであると認められ、右原告らのゴルフクラブ会員権に基づく請求はいずれも理由がない。

五  被告湯の郷観光と旧会員の和解の成否・効力(原告番号四一九、五二一ないし五二四、五二九の各原告関係)について

1  抗弁2(和解契約の成立)について

原告番号四一九の原告は、平成元年三月三一日、被告湯の郷観光との間で、昭和六四年一月一日から五年間据置き後預託金の五〇パーセントの支払を受け、それ以上の請求を放棄する旨の和解契約を締結したこと、原告番号五二一の原告は昭和六三年一二月一五日、同五二二の原告は昭和六三年ころ、同五二三の原告は平成元年一月一八日、同五二四の原告は昭和六三年一二月二六日、それぞれ、被告湯の郷観光との間で、即時各預託金の二〇パーセントの金員の支払を受けることにより被告湯の郷観光に対する請求を放棄する旨の和解契約を締結したこと、原告番号五二九の原告は、平成元年三月三一日、被告湯の郷観光との間で、昭和六四年一月一日から七年間据置き後預託金の七〇パーセントの支払を受け、それ以上の請求を放棄する旨の和解契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

2  再抗弁2(和解契約の錯誤無効)について

(一)  昭和六三年八月ころ、被告湯の郷観光が、原告らを含む旧会員に対し、被告湯の郷観光は訴外会社から旧会員の権利義務を承継しておらず、同年一二月末日限り旧会員を湯の郷カントリークラブの会員として扱うことを止める旨通知し、同年一〇月一五日ころ、さらに、旧会員に対し、救済策として、前記一7(四)のとおりの案を提示し、回答を求めたことは当事者間に争いがない。

(二)  《証拠略》によれば、右(一)の和解契約成立の経緯は以下のとおりである。

被告湯の郷観光は、前記7(四)〈1〉〈2〉の案(一定の金員支払いを受けるのと引換えにその余の請求を放棄する)を選択した旧会員らに対し、書面で解決金金額を通知するとともに、右〈1〉の案を選択した旧会員に対して、右旧会員が、「湯の郷カントリークラブ」の会員権に関する件の解決金として、被告湯の郷観光から右金員を受け取ることを条件に、本件に関する請求をしないことを確約する旨の記載や、会員権証券本券、購入領収書、会員証を返還するよう求める旨の記載のある「解決金支払請求書兼念書」を送付し、署名押印を求めた。

原告番号五二一ないし五二四の各原告は、これに応じて各署名押印のうえ、右書面を被告湯の郷観光に返送し、被告湯の郷観光から預託金ないし譲受金額の二〇パーセントにあたる各金員の支払いを受けた(原告番号五二一の原告は八万円、同五二二の原告は一二万円、同五二三の原告は一二万円、同五二四の原告は六万円)。

ついで、被告湯の郷観光は、〈2〉の提案に応じた旧会員に対して、書面で解決金金額・満期日を通知するとともに、(a)湯の郷観光が右旧会員に対し、〈2〉の提案金額の支払義務あることを確認し、平成元年一月一日を起算日として満期日から二週間以内にこれを支払うこと、(b)右旧会員は、被告湯の郷観光に会員証券等を交付すること、(c)本件ゴルフ場の件に関し本書により全て解決したことを確認し、その他理由名目の如何を問わず右旧会員は被告湯の郷観光に請求しない、との合意内容を記した「債務承認並びに履行契約書」を送付した。

原告番号四一九、五二九の各原告は、これに署名押印のうえ、被告湯の郷観光に返送した。

(三)  右原告らは、右和解は錯誤により無効である旨主張するが、右認定の和解の経緯に照らせば、被告湯の郷観光の訴外会社からの権利義務承継につき問題が生じていたことから、同被告が旧会員の権利義務を承継するか否かにかかわらず、右原告らが同被告から一定の金員の支払を受けること等により、同被告に対する権利に関する紛争を解決する趣旨で当事者間で和解の合意がなされたものと認められるから、右原告らにおいて錯誤があつたと主張するのは、争いの前提として当事者に意識されていた点に関するものであり、争いがなく確定的なこととして和解の基礎とした事実に関するものといえない。

そうであれば、右原告らの錯誤無効の主張は理由がないというべきである。

3  以上によれば、原告番号四一九、五二一ないし五二四、五二九の各原告らと被告湯の郷観光との間で、右原告らは同被告に対する預託金の一定額の支払請求権を除く請求権を放棄する旨の和解が成立し、右和解は有効なものであるから、右原告らのゴルフクラブ会員権に基づく請求はいずれも理由がない。

六  被告湯の郷観光の債務不履行(差額金請求原告ら関係)について

1  被告湯の郷観光が、昭和六三年一〇月一五日ころ、旧会員に対し、前記四1(一)記載の通知をし、右提案のうち〈3〉の提案(追加金を差し入れる)を了承した旧会員を新会員としたこと、平成二年四月一日から、右新会員のみに対して、湯の郷ゴルフ倶楽部の施設利用料金を一回当たり六八五〇円とする取扱いを開始したこと、旧会員に対しても平成元年一月以降も従前の会員料金(一回当たり七九〇〇円)によつて湯の郷ゴルフ倶楽部の施設を利用できる優待券を配付していたが、平成二年四月一日から、旧会員及びビジターに対する施設利用料金を次のように変更したことは当事者間に争いがない。

(一)  旧会員

平日 七九〇〇円から 八八五〇円

土曜日 七九〇〇円から一万二八五〇円

日曜・祭日 七九〇〇円から一万二八五〇円

(二)  ビジター

平日 一万〇五五〇円から一万〇八五〇円

土曜日 一万五五五〇円から一万八八五〇円

日曜・祭日 一万七五五〇円から一万八八五〇円

2  原告らが、被告湯の郷観光に対し、湯の郷ゴルフ倶楽部の会員資格を主張できることは前記のとおりであるが、前記認定事実によると、被告湯の郷観光は、旧会員のうち追加預託金を入れて新たに契約したものを新会員として、旧会員より有利な取扱いをしているものである。

ゴルフ会員権も、ゴルフ場経営状況等によつて会員権の種別の新設、個別的内容(利用料金・利用方法等)の変更等が一般に予定されているものであり、甲B第一八、一三三号証によれば、湯の郷カントリークラブにおいても、規約、会則・細則において、「別に定める低料金…」(規約第一〇条)、「会社が別に定める所定の諸料金」(会則第八条)、「本クラブ経費、運営その他に関する規則は別に定める。」(規約第二七条)、「本会則に定めない事項及び運営上必要な細則及び諸規定は別に定め…」(会則第二五条)など、会員権の個別的内容については、より変更の容易な形でゴルフ場経営会社が適宜定めることを予定していたことが認められる。

これにかんがみれば、被告湯の郷観光が会員権内容に二段階を設け、それぞれ異なつた取扱いをすることも、旧会員の会員権を実質的に否定するような合理性を欠くものでない限り、経営方法の合理的な範囲内として、旧会員に対して債務不履行の責任を負わないと解される。

そして、前記の利用料金によると、旧会員の料金もビジター料金よりはかなり低額におさえられており、右料金が旧会員の会員権を実質的に否定するようなものとは認められないから、原告らの新会員との施設利用料金差額についての損害賠償の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

七  預託金残金請求権の有無(原告番号五一八ないし五二〇の原告関係)について

前記認定事実(一6(七))、前掲甲E第五号証及び弁論の全趣旨によれば、右原告らが、湯の郷カントリークラブの規約の、入会後一〇年を経過すると退会でき、退会の際には訴外会社に対し預託金の返還を請求できる旨の規定に基づき、入会から一〇年以上経過した昭和六一年二月二八日、訴外会社に対して退会の通知をし、各預託金の返還を求めたが返還されなかつたため、大阪地方裁判所に対し、訴外会社を被告として各預託金一二〇万円の返還を求める訴えを提起し、右裁判所より勝訴の判決を受け、その確定判決に基づいて訴外会社及び被告湯の郷観光に対し強制執行を行い、これにより右各原告とも七〇万円について弁済を受けたが、右残金各五〇万円についての弁済を受けられなかつたことが認められる。

そして、被告湯の郷観光が、商法二六条一項に基づき、訴外会社の会員に対する債務につき弁済義務を負うことは前述のとおりであるから、右原告らは、それぞれ被告湯の郷観光に対し、右預託金の未払残金を請求することができる。

八  結論

以上によると、原告らの本訴各請求中、原告番号一ないし七、九ないし二二、二四ないし二九、三一ないし四〇、四二、四四ないし四八、五〇ないし六〇、六二ないし六六、六八ないし七六、七八、八〇ないし九〇、九二ないし一〇五、一〇七ないし一一三、一一五ないし一二八、一三〇ないし一四七、一四九ないし一九〇、一九二ないし二〇四、二〇六ないし二四七、二四九ないし二五八、二六〇ないし二六五、二六七ないし三三二、三三四ないし三八四、三八六ないし三九四、三九六ないし四〇八、四一〇ないし四一六、四一八、四二〇ないし四六〇、四六二、四六四ないし四九二、四九四ないし五一七、五二五ないし五二八、五三〇ないし五五〇の各原告が被告湯の郷観光に対し、右原告らが被告湯の郷観光が本件土地において経営する湯の郷ゴルフ倶楽部の別紙会員権目録記載の各会員権を有することの確認(主位的請求)を、原告番号五一八ないし五二〇の各原告が被告湯の郷観光に対し、各五〇万円及びこれに対する右原告らの本訴請求事件(平成元年(ワ)第五八三九号)の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成元年八月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は、原告番号八、二三、三〇、四三、四九、六一、六七、七九、九一、一〇六、一二九、一四八、一九一、二〇五、二四八、二五九、二六六、三三三、三八五、三九五、四〇九、四一七、四一九、四六一、四六三、四九三、五二一ないし五二四、五二九の各原告の予備的請求を含めていずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 一谷好文 裁判官 池町知佐子)

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